深いっ!!

須田雅美

2009/7/25

千秋楽の朝、私達が登場するシーンでメインとなる人物を演じる齋藤遼くんが早めに1人で舞台稽古を始めていました。演出の井田さんはそのシーンが気になっていたようで、初舞台の遼くんは毎日のようにダメ出しとアドバイスを受けていました。私達が邪魔にならないように舞台の隅でストレッチをしていると、井田さんが舞台の方へいらっしゃって、遼くんに対して「演出家」としてというよりはお芝居の「師匠」、「先輩役者」として演技指導をし、役作りのアドバイスをされました。その間、私達の耳はダンボ…「あ〜、耳に録音機能があったらいいのに…。」なんて思いつつ、堂々と盗み聞きをしちゃいました。学んだ事?お芝居の世界は深いっ!ということです

映像(テレビや映画)と違って、演者のアクションがその人物の心情表現に大きく影響をする舞台でのお芝居ではそのサジ加減が難しく、わざとらしく見えてしまったり、薄っぺらく見えてしまったり、セリフが上手く観客に届かなかったり(伝わらない)することは私でも分かります。じゃあ、どうするんだろ?演出家の指示通りに動き、セリフの速さや強さを器用に変えられればとりあえずは通じるみたい。「今の若い役者達は、悪い意味で器用」と大鶴義丹さんの母上がおっしゃっていたとか。器用すぎていろいろ試行錯誤しないし、失敗をしない分、演技に深みが無い…らしいです。

遼くんが演じるのは、お芝居の中で様々なドラマが繰り広げられるお屋敷に昔住んでいた男の子。そしてストーリーの核となる女性が高校生の頃に出会い、恋に落ちる。お屋敷の持ち主の愛人の子で、父親はこの屋敷で自殺をし、母親とも他界している。趣味はサックスだが、病気のためにもうすぐ演奏できなくなる。…と、こんな人物であるということは、台本を読めば分かる。この人物になりきるには「役作り」という作業をしなくてはなりません。井田さんの遼くんに対するアドバイスは、役者じゃない私達が聞いていてもとても説得力のあるものでした。「心臓が悪いっていう設定だったら心臓病を患う人を観察したり、どんな感じなのかリサーチして、同じ状況になるように試してみなくちゃ!例えば、10キロぐらい走った直後にセリフを言ってみるとか。サックスが趣味って設定だったら、この芝居中にサックスが吹けるようにならなくちゃ!俺だったら、まず自分専用のマウスピースを買うね。芝居が終わる頃にはこのシーンで流れる曲を吹けるようにならなきゃ。そんなことできたら、もしかして次の芝居のキャスティングでそれが生かされるかもしれないでしょ?」あ〜、なんて素晴らしいアドバイスでしょう。出演料を頂いて、その上に無料で演技指導やアドバイスをして頂けるなんて、遼くん、ラッキーだったねぇ。

私の演じた人物は「おばちゃんっぽい感じ」とか、「下品に」「ずうずうしくて知りたがりな人」だと井田さんの中にはイメージがあったようです。水谷あつしさんに「演じるって難しいです」と言うと、「自分の中にあるものとすり合わせるんですよ。」とアドバイスを頂きました。でも、自分の中にない場合はどうするんじゃ?

役作りといえば、私達もちょっとこだわりがあるんです。セグエ選手権大会では毎年テーマを変えて作品を踊っていましたが、ダンスは2人で踊るからある意味2人芝居。私達の中で一番難しかったのは、賛否両論だった「BABIES」でした。子供を生んだこともなく、近くに都合よく赤ちゃんがいなかったから、赤ちゃんが出ている映画や赤ちゃんの動きを追った教育ビデオを見て、赤ちゃんの動きを研究しました。あの作品…今ならもっと上手く表現できるかも。

ダンスと同じくセリフなしで、しかもいろんな役を演じるバレエでは、ある年齢を演じるにはその倍の年齢にならなければ演じられないと言われています。例えば、ロミオとジュリエットのジュリエットは14歳だから、28歳にならないと上手く演じきれないということ。バレエのテクニックも正確で経験を積んで磨かれていたほうが表現がハッキリとするし、人生経験を積んでいたほうが感情の表現にも幅が出ると考えられているのでしょうね。

私達が踊る社交ダンスは男女2人でリズムに合わせて踊るもの…競技会では何度も同じ踊りを繰り返すし…だから感情を表現するものと比較して「スポーツ的」と言われています。男女を表現するなんてそのままの自分であればいいんだから簡単って思ってたけど、生物学的に分けられた男性もしくは女性を「演じる」としたら、実はもっと深く考察しなくちゃいけないということに気が付きました。そういえば、ダンス界にはゲイもたくさんいるけど、普段は女性から見ても「女性っぽい」と思うしぐさをしているのに、ダンスを踊る時には「男性らしく」踊るように努力しているようです。実際、引退してからゲイ(!?)に磨きがかかったダンサーはたくさんいますから。

短い期間ではありましたが、同じ表現者として役者さん達と同じ舞台に立たせて頂き、学んだことは「表現の世界は深い」ということ。そして私はその深みにハマってしまった表現者の1人なんだってことに気が付きました。

芝居「SHURABA」に関する詳しい内容は、
劇団たいしゅう小説家http://www.h4.dion.ne.jp/~tai-setu/をご覧下さい。