ロンドンインターに行ってきました プロフェッショナルラテンの部
須田雅美
「表情が無くてオカマのサイボーグみたいなジョアンナが笑ってる…めっちゃ不気味なんですけど…」これ、今回マイケルとジョアンナが登場してきた時の印象。そう、不気味なんです。笑顔を作るのに慣れていないからなのか、まるで私達がロンドンで唯一観光をしたことがある、マダムタッソーの蝋人形館から抜け出してきたかのよう…(@_@;)コワイ…
<彼女の笑顔にはワケがある…>
彼らは今回から登録国籍をイギリスに変更して出場してきたのです。リッカルドに負けないようにする為の作戦とはいえ、見え見えだぞ!クォルァ〜〜(-_-メ)凸
あ、イギリスの3大大会は、イギリスのジャッジの割合が多いのです。ま、開催国ですから当たり前かもしれません。ボールルームダンスはイギリスのお家芸だと思い込んでいたのに、いつのまにか選手が減り、選手がいないからコーチも外国に散らばり…メッカに参拝に来る信者も減ってしまいました。そんなイギリスのダンス界をなんとかして盛り返したいと懸命になる協会と、ジャッジパネルによっては不確実な世界チャンピオンの座よりも、歴史ある3大大会のチャンピオンの座をなんとしてでも守りたいマリトースキー組との思惑が、めでたく一致したのですね。
あるイギリス人のコーチに「どうしてマリトースキーは国籍を変えたの?」って聞いたら、「ポーランドでアマチュアとプロの間で問題があって、いろいろ面倒なんじゃないかしら?でも、誰だって国籍はすぐに変えられるのよ。」なんてしどろもどろに答えて話題をすり替えようとしていました。「おかしいな、今回のロンドンインターではすべてのカテゴリーでポーランド勢の活躍が目立ったんだけど?」なんて言い返してイジメるのは、それこそ面倒だからやめておいたわよ(=_=)
ジャスティナスと組んでいたエカテリーナがフロアに戻ってきた。ドニー大先生の元妻の彼女。シ〜ッ!ここはスルーして!!私に何も聞かないで下さい(>_<)彼女がジャスティンと踊っていた時には「ミステリアスっていうか、ヴァンパイアとか魔女みたいな女性だな…」と思っていましたが、今回は良く踊れるスタイリッシュな女性に変身していました。相手の Anton Karpovは、どうやらジュニアの頃からトップを走り続けてきた有名人らしいんだけど、私は初めて見た気がする…。スラビックとセルゲイ・サルコフをたして2で割ったようなダンサー…足元の軽さはスラビック、姿勢良く踊り過ぎる所はセルゲイって感じ。時々変なシミー(Shimmy)をする…肩じゃなくて腕をゴリラのできそこないみたいに振るのは、如何なものか(-_-)
有名ってだけではここから上は難しい。頑張って欲しいな。
<エカテリーナとアントン>
名前のあがったジャスティナスは、春よりも2人で踊ってる感じにはなりましたが、彼の動きは春よりも悪くなった…長い手足をふにゃふにゃと動かすだけで進まない。何を目指してるんだろう?分かってあげられない。アナは…感心しちゃうぐらい美しい☆けど、それだけ。茶色の衣装のジャスティンはまるで蜘蛛に見えた…そう思って見てたら、くすんだグリーンのドレスを着たアナが毛虫に見えた。面白いショーダンスができそうだなぁ。
<毛虫ちゃん、気を付けて!>
あ、そういえばユリアの元リーダー、マクシム・コツェニコフが踊ってた…いまさらコンペで踊らなくたっていいじゃん(=_=)ユリアと踊っていた時から評価が高すぎるって事に、いい加減気付け(-_-#)マジで邪魔。
ユリアと一緒に踊って間違ってトップダンサーとなってしまい、カップル解消した後もビジネスはうまくいっていたけど、ユリアが世界チャンピオンになっていくのを見ていて羨ましく思い出して復帰したんじゃないか…とエスパン教授は推測されていました。うん、そうかもしれない。でもF**kin’ Uselessが復帰しても誰も喜ばないっつ〜の。
<ユリアに怨念を送るマックス←ウソ>
「おとなしい」というのは表現をする競技ではあまり良い表現ではないけど、セルゲイとメリアは少し静かで大人っぽくなった印象でした。4月の世界選手権の時に見せたピチピチとした感じが見えなかったのはライバルとして3位争いをしていたフランコがいなかったせいでしょうか。こんな時にはメリアの動きがとても遅くなり、ともすると音から外れてしまう事があります。
<ボケてしまいましたが…サルコフ組>
メリアは自分をよく分かっています。優勝争いをするジョアンナとユリアのような鋼のようなボディではないし、ものすごい得意技があるわけでも無いけど、血の通った人間…特にラテン民族の情熱的な女性を感じさせる存在である、という事を自身の特徴にしています。そのためにいつも髪を黒く染めてひっつめにしています。口紅も女性らしさを強調するような赤をつけています。トップ2組と違って普段からオシャレも気を遣っている事は、競技会で着るドレスのセンスにも表れています。あ、出会った頃の彼女は、今は滅亡してしまった渋谷のヤマンバギャルみたいでしたけどね(^_^;)
<昔のメリア…じゃなく、絶滅したヤマンバギャル>
そのメリアがトラブルに陥りやすい原因は、歩幅を大きくしてセルゲイと一緒に移動をするという事に集中してしまう事にある気がします。 キビキビした動きはゆったりした動きとの対比で、また優雅な動きはシャープなキレとの対比で…そのコントラストがはっきりすればするほど相乗効果を生み、豊かな表現となります。その選手がどんな動きが得意か、またはどんなプロポーションかなどによっても強調すべき動きが違います。
メリアの場合はゆったりした運動に重きを置いて表現をしているのですが、軸移動の時間と体重移動の完了までの速度や時間配分が悪く、結果的にヒップアクションのフィニッシュが遅れて、強調したい音が長くなり過ぎてしまったり、もや〜っとしてしまうようです。
私も経験があるのですが、ゆったりした表現はとても難しいのです。特にメリアは背が高くて筋力も強いセルゲイと踊っているのですから、歩幅を大きくしなくてはなりません。大きな歩幅で踊る場合、出した脚の方に移動する時間や速度と、乗り越える(体重を片脚に乗せて逆脚を次の方向に出していく)時間や速度をコントロールするのが非常に難しく、かなりインナーマッスルの強さが必要です。しかもそれだけではなく、股関節や膝といった関節を曲げるタイミングや角度をコントロールしなくてはなりません。このタイミングが悪いと上半身と下半身にゆがみが起きやすくなり、屈曲角度が浅かったりすると歩幅を大きくとって移動はできてもヒップアクションが遅れたり小さくなってしまったりします。メリアは最近、「世界一のルンバウォーク」を踊るゲイナー・フェアウェザーにレッスンを受けているようなので、ぜひ彼女の秘密を全て聞き出して自分のものにして欲しいと思います。
おっと、セルゲイについて触れていませんでしたね。今回セルゲイに関して特筆すべきは、彼女に与えたり要求したりするエネルギーを上手くコントロールできていた事。
カップルは2人が同時に進化して見える事は少なく、お互い順番に追い越しながら上達していく事が多いので、今回はもしかしたらセルゲイが一つ大人になった競技会だったのかもしれません。
イタリアのステファノ・ディ・フィリッポはアマチュア時代から大変人気のあるダンサーですが、私の中では昔の子供向け番組「がんばれ!ロボコン」のガンツ先生のイメージ。
プロポーションの印象も硬くて四角くておおよそダンサーには見えないし、動きを見ても見た目の印象と変わりがない。フットワークだけは体の大きさにしては軽いので、サッカー選手みたい。
<ステファノ・ディ・フィリッポ…のイメージ>
ダンス一家に育った彼は、子供の頃から活躍してアマチュアチャンピオンとなり、現在に至るわけだけど、私は彼の「アイコン」となるような振付けをしたリチャード・ポーターをスゴイと思っても、ステファノのダンスがスゴイとは思わない。
競技ダンスは音楽や感情を種目とそのベーシックというルールにのっとって表現する運動です。審査をする場合には外側に発信するプレゼンテーションの部分を、ダンサー個人を評価したり他の選手と比較して審査します。プレゼンテーションとはとても広範囲で、「運動神経が良い」「種目の特徴をしっかり表現している」「感情表現が上手い」「ルックスが良い」など、フロアに入場してから退場するまでのすべての行動といってもいいぐらい。このなかでも大切なのは「種目の特徴」の表現です。これはダンスを始めた時に必ず教えてもらう、種目ごとに存在するベーシックフィガーとそれを踊る時のフットワークやアクションによってその音楽を表現できることになっています。
ところがステファノの振付けをしているリチャードは、自分でベーシックを教えるのは面倒だとか何とか言って振付けだけを与える人で、そのステップがあるベーシックの発展型(バリエーション)だという情報を与えないのです。コネクションを使ってのテクニックが未熟で彼の振付けを踊っているカップルは、洋の東西を問わずコネクションに問題が生じやすく、二人での空間の扱い方が悪く見えます。彼の振付けをスムーズに踊るためのテクニックを教えてあげたいな〜」なんて思いながら見てるってストレスだわ〜(-“-)
アンドレイ・スクフカもガンツ先生系の体型と踊りなんだよなぁ…ステファノよりは柔らかいけど、動きに若々しさが無い。移動するためにエネルギーをあまり使ってないからじゃないかな?
でも、ちょっとだけ褒めておこう。次の写真を見て下さい。
彼が右脚に移動をしながらメリンダの方にアプローチかけてるところです。左右の脚への体重配分を調節して体の前面と背中のバランスを取るため、ボディのど真ん中からしっかりと外巻のスパイラルを作っているのがわかります。
これは当たり前のテクニックですが、何も考えずに足型や腕の動かし方だけを真似しちゃってる人って多いんじゃないかなぁ。こういう何でもなさそうに見える部分を見ると、そのダンサーの知識や質が見えてしまいます。上半身と下半身の運動を連動させるという事は初級の方には難しいので、ラテンの場合はルンバのベーシックアクションとフィガーを練習する際、足型と体の動きにマッチしたアームワークを身に付けると良いと思います。
明先生はマウリッツォが大好き。「ダンスを心から愛してる」って、全身を使って表現してくれてる感じ。でも今回はちょ〜っと上を向きすぎたかな?ロイヤルアルバートホールは円形のすり鉢型になっているので、天井桟敷のみなさんの方まで向いてパフォーマンスしようとすると失敗します。踊るフロアは観客より1段低いのですからね。
壊れたおもちゃのようで楽しいけど、単にハチャメチャではなく、実はきっちりと基本ができているのですよ。
<おもちゃのチャチャチャ!?>
今回リッカルドとユリアがマイケル&ジョアンナに負けてしまった一番大きな敗因は、特にリッカルドの長所であるボディリズムを打ち出しにくい振付けだった事でしょう。彼から聞いた話では、夏にドニー大先生の所で修業を積み、その際に振付けも変えたのだとか。確かに、往年のドニー&ゲイナーが踊っていた伝説的なステップを随所にはさみ、リッキーとユリアの「小柄で動きが素早い」という特徴を生かそうと試みたのかもしれません。
気を付けなければならないのはドニーとの身体の大きさの違いです。ドニーの身体のデカさ、お肉の多さ(ごめんなさい(>_<))で同じステップ踊ると、ちょっと遅いし(これまたごめんなさい(>_<))、使われている部分の面積が広いからとってもボリューミーだし、エキストラリズムも生まれます。ずるいよ!チビッ子ダンサーにはハンデがあるんだよぅっ(/_;)
ドニーが私達にチャチャチャなどのリズムダンスを振付けている最中に使うキーワードの割合は「セクシー」よりも「キュート」に偏りがちでした。リッキー達もドニーからすれば私達と同じタイプなので、きっと同じように「ハイディ、見てみろよ!キュートだろ?」って興奮しながら振付けていたであろう…と想像できます(=_=)でも、私達はまだ良かったんです…フレッシュに見せなければならない地位だったから。でも、リッキー達は世界チャンピオン。しかも世界選手権以外では優勝をしていない…という危うい立場です。チャンピオンの座を確実なものにするために、自分の最大の武器であるボディリズムが生かせるような振付けにするべきだろうと思いました。きっとドニー大先生もこれをジャッジし「やっぱやりずぎたか…」と少し反省して、彼らの振付けを練り直してあげてくれている事でしょう。
長々と書き連ねてしまいました…お付き合いくださった皆様、ありがとうございました。
おまけでジャッジをしていた我が師匠達のお写真を…ゲイナーちゃんはプラスティックサージェリーでかなり昔とお顔が違っておりますが、バーンズ氏は単なるアホ顔しているだけです(-“-)ハズカシーなぁ、もうっ!
<ゆかいなドニーとお洒落なゲイナーちゃん>
結果:Professional Latin
MICHAEL MALITOWSKI and JOANNA LEUNIS (England)
2 RICCARDO COCCHI and YULIA ZAGORUYCHENKO (USA)
3 SERGEY SURKOV and MELIA (Russia)
4 ANDREJ SKUFCA and MELINDA (Slovenia)
5 MAURIZIO VESCOVO and ANDRA VAIDILAITE (Canada)
6 STEFANO DI FILIPPO and OLGA URUMOVA (Italy)