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スタッフコラム

もじもじまさみ 振付家リチャード・ポーター

須田雅美


2010/7/12

以前も書きましたが、ここ数年リチャード・ポーターが来日するたびにレッスンを受けています。今のラテンダンス界を引っ張るコーチです。
彼はイギリス人。子供の頃にダンスを始め、アマチュアチャンピオンからプロに転向してファイナリストとして活躍。日本インターにも出場したり、世界中で活躍しながら惜しまれつつ引退。と、普通のトップダンサーの生涯(?)のようですが、実は引退をする頃に彼の中にある思いが芽生えたことが、彼を人気のあるコーチにしたのです。
私達が現役だった頃から既に、イギリスってイケてないダンサーが多かった。イギリス国籍のダサダンサーが私達より成績が良いと「あぁ、彼はイングリッシュパスポートを持っているからねぇ」と色んな人に慰めてもらった思い出があります。
リチャードも私の中では例外なくイケてない組に分類されていて、デモンストレーションを見たいとか、レッスンを受けたいなんて思ったこともありませんでした。ただ、スタンダードダンサーのジョナサン・クロスリーがまだアマチュアだった頃、ショーの為の振り付けをリチャードにしてもらっているのを見かけ「リチャード・ポーターなんかに何故?同じイギリス人としてのよしみかなぁ?」と不思議に感じたことがありました。
また彼はドニーと仲が良かったので、私達が宿泊しているドニーの家にも遊びにくることがあり、一緒にスヌーカーやゲームをして遊ぶこともありました。そのせいではないと信じたいけど、私達のダンスに対してとても好意的で、いつも良い成績をつけてくれていました。でも、ただそれだけの関係でした。


リチャード・ポーター

私達は引退をして、ダンサーとしてだけでなく、教える立場として勉強をし続けることになりました。ロンドンなどに出かけて世界的な大会を観戦すると、選手だった頃よりも視野が広くなり、トレンドの移り変わりが良く見えるようになります。
ラテンダンス界ではここ5年ほど、そのトレンドの先にいるコーチャーを探るとほとんどがリチャードにたどり着くのです。世界のトップダンサー達、そしてたくさんの日本人選手もレッスンを受けている彼にはぜひ触れてみたい!幸いドニーとの仲も良いようだし…ということで現役選手に混じってレッスンを受けさせてもらうことになりました。振付けの才能があるという話も聞いていたので、まずは檜山組の引退パーティでの自分達のショーを作ってもらうことから始めました。
初めて彼に振付けをしてもらって感じたのは「音の取り方が新鮮だ!」「リードとかあまり気にしていない?」「簡単なステップが多い…」でした。振付けをしていくプロセスは振付家によって様々ですが、リチャードのやり方は私達にとって初めてで、「へぇ、こんなやり方もあるんだね」と新鮮でした。
彼は最初に音楽を聴いて、次に音楽に全く関係なくA、B、C…と振付けを数小節ずつのブロックに分けて行い、その後A、B、Cをパズルのように入れ替えたり途中に何かをはさんだり削ったりして音楽にフィットさせるのです。
それに対してダンサーは、まず振付けをざっくり覚えて踊れるようにし、限られたレッスン時間の中ですぐにパズルの入れ替えに順応しなくてはならないので、案外大変な作業です。でも脳みそをフル稼働させてるのが実感できて「あぁ、私の脳みそはツルツルじゃないな…」と満足感も得られます。
私は見かけによらずパニクりやすく、リードされて自然に動いてしまった振りを足型として記憶できないことが多いのですが、明先生はサラッと覚えてパズルにも素早く順応してくれるので本当に本当に助かっています。あぁあ、私の記憶力っちゅうもんは子供の頃のバレエでキャパを使い果たしちゃったんだろうな。メモリ増設したいです。
なぜ彼がこのような方法をとるのか?とか、レッスン中によく「ナマケモノ〜(のように)」と要求するのか?などの疑問は、ただレッスンを受けているだけでは理解できません。しかし、何度かレッスンを受け、一緒に食事に行って話をするうちに、彼のダンス観を形成している様々なことを知ることができました。
彼は「小さい頃にダンスを始め、なんとなく続けるうちにアマチュアチャンピオンになり、なんだか流れでプロになっちゃった」と自分の現役時代を振り返って言います。その、「なんとなく」ダンスを続けていることに違和感を覚え、その当時にしては早すぎる引退をしたのだそうです。その後ブラブラしていた彼は「やっぱりきちんとダンスと向き合いたい」という気持ちが沸き、イギリスの有名なラバンというコンテンポラリーダンスの専門学校に通ったのです。この学校で学ぶことは本当に大変で、高いレベルの英語力を持つことが入学の条件としてかかげられています。英語を母国語とする彼でさえ「何度も繰り返しテキストを読まなければ意味が分からないような文章が多かった」と話すぐらいですから、日本人でそこを卒業したという人はまだいないようです。リチャードはこの学校で、様々なダンスに関係することをたくさん学び、ラテンダンスに取り組む姿勢が変わったと話していました。

リチャードのレッスンを受けているダンサーはたくさんいます。
有名なところではセルゲイ&メリア…メリアの初めて外国人コーチャーはリチャードなんだって。
アマチュアではイギリスのニール、クロアチアのゾラン、イタリアのニーノ(アニエロ)、そしてステファノなどなど。
セルゲイ達は主にショーの振付けをしてもらっているようなので例外として、その他のダンサー達のことを「ネオイングリッシュスタイル」と明先生は分類しています。
もともとイギリスで作られたボールルームダンスは、歴史を重ねるうちに世界のあちこちに広まり、研究されて進化をしました。
そしてイギリス以外からも素晴らしいダンサーや指導者が台頭し、少しずつ個性の違うスタイルが世界の舞台で競われるようになったのが現在の競技シーンです。
広まったおかげでイギリスは、お家芸を奪われたかのように見えます。
これは、多くのイギリス人コーチが過去の栄光に甘えてしがみついていることによって起きたこと…自業自得です。


ニール&カーチャとゾラン&タチアナ


ニーノ(アニエロ)・ランガラ


ステファノ

でも、中には生徒からインスピレーションを得ることができる柔軟なアタマを持ち、ダンスの勉強をし続けるコーチもいます。このような進化し続けるコーチ達のスタイルのダンスを私達は「ネオイングリッシュスタイル」と呼んでいます。こういうコーチをチョイスできたダンサーはラッキーか頭が良いかのどちらかでしょう。
ただ、リチャード・ポーターに関しての注意は彼がベーシックを教えようとしないこと。「ベーシックは違う先生に習え」と生徒にハッキリ告げていると彼自身が話していました。こんなんじゃどうしようもありません。実際、彼に振付けをしてもらっている最中にも、どんなステップを私にさせたいのかリードが伝わってこないことがあり、困ってしまうことがあります。ここがエスパン教授やドニー大先生との決定的な違い。
リチャードと踊った印象は、ベーシックステップの名前や基本的な足型は当然知っていて、体重を使って相手に伝えるのは上手いけど、相手に音を細かく表現させるためのリードや、複雑な2人の位置関係の変化を伝えるためのリードはほとんどしないか、リードしてくれてもあまり上手くない。リード&フォローには知識と経験、そしてセンスが必要です。リチャードは自分が現役時代にチンタラやってたみたいだけど、もしかしたらこういう肝心な勉強を深くしなかったのかもしれないですね。そしてこのボールルームダンス特有のリード&フォローのようなテクニックは有名なダンス専門学校でも教えないようです。だから、リチャードに振付けてもらったらまずはそのステップの見直しをして、2人の位置や動きがどうかみ合うのかを再構築してから踊らなくては完成しないのです。
リチャードに習っている現役選手の皆さん、その選手に習っている皆さん、要注意ですよ。
パートナーと2人で踊るって、自分1人で踊るよりも数段難しいんです。履物だってハイヒールですからね。バレリーナとして1人で、もしくは男性パートナーに支えてもらって自由に踊っていた経験者である私が言うのですから、間違いありません。バレエの男性なんて滑りにくいバレエシューズだし、女性を支えたり回したりしている時は複雑なステップを踏まないから、女性が軽々と踊れて当たり前なのです。
ボールルームダンスの上達を目指す皆さん、振付けを変えたからって簡単に上手くなりはしません。古くても新しくても、自分達のルーティンを分析して踊ることで初めて上達するんです。その分析の為に必要なのは正しいベーシックテクニックですよ。私も、もっともっと勉強します!



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